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癌(がん)が治った、癌(がん)が良くなった、癌(がん)が回復した体験談情報

がん指標のタンパク質、新検出法開発 甲南大など 



 甲南大先端生命工学研究所(神戸市中央区)と中国科学院の研究グループは、がんの指標となるタンパク質の新しい検出法を開発した。従来の方法より
精度が10倍以上高いといい、がんの早期発見に役立つことが期待される。論文がドイツの化学誌「アドバンスド・ファンクショナル・マテリアルズ」電子版に
掲載された。

 このタンパク質は「サイクリンA2」と呼ばれ、別のタンパク質と結合して細胞の分裂や増殖を制御する。サイクリンA2が異常に多いことががんの指標となるが、炭素素材と結合させて検出する従来の方法では結合力が弱く、一部しか検出できなかった。

 
同研究所の杉本直己所長らは、サイクリンA2と結合する別のタンパク質の一部をまねて、アミノ酸の人工物を作製。結合力を強化し、蛍光物質を加えた。この
人工物は、今年のノーベル物理学賞の受賞対象となった新炭素素材「グラフェン」と結合すれば光らなくなり、サイクリンA2と結合すると逆に強い光を放出。
採取した血液などに人工物とグラフェンを投与すれば、サイクリンA2だけが光って数多く検出できるという。

 杉本所長は「検出法が単純なので、利用しやすいのではないか。今後、別の病気の原因物質を検出することにも使えるようにしたい」と話す。

2010年12月9日 神戸新聞


| がんの最新研究報告 | |
「赤身肉食べ過ぎでがん」説の構造解明 いわき明星大

 「赤身肉を食べ過ぎるとがんになりやすい」とする学説について、いわき明星大薬学部(いわき市)の竹中章郎教授の研究チームは9日記者会見し、肉に含まれる成分によって遺伝子が変異する立体構造を解明した、と発表した。遺伝子変異を防ぐ新薬の開発や調理方法の改良などにつながるとしている。

 筋肉中に酸素を貯蔵しているミオグロビンが触媒となって、食べた人の体内で化合物を作りだし、それが遺伝子を構成するDNA要素の一つ「グアニン塩基」を攻撃して変形させてしまうことは知られていた。

 竹中教授らはグアニン塩基が変形させられると別なDNA要素の「シトシン塩基」との結合様式に異常が起きることを発見した。この遺伝子変異を立体構造図で示すことにも成功したという。

2010年11月10日 朝日新聞

| がんの最新研究報告 | |
カプサイシンががんの発生促進、建国大教授らが解明

各国で料理に愛用されているトウガラシの辛味成分で鎮痛剤にも利用されるカプサイシンが、がんの発生を促進するとの研究結果が出た。

 建国大学が6日に明らかにしたところによると、同大学特性化学部生命工学科の李基ウォン(イ・ギウォン)教授、ソウル大学の李炯周(イ・ヒョンジュ)教授、米ミネソタ大学のアン・ボード教授が共同で研究を行い、カプサイシンががん誘発タンパク質となる上皮成長因子受容体(EGFR)の活性を誘導し、炎症の誘発およびがんの発生に重要なタンパク質(COX−2)を発現させることで、皮膚がんなどを促進することを、マウス実験で証明した。

 今回の研究で、皮膚に塗る局所用鎮痛剤に用いられるだけでなく、がん細胞の死滅を誘導する効果が立証されていたカプサイシンが、がん発生を促進するプロセスを明らかになり、注目される。

 特に、痛みを和らげる上で重要なタンパク質TRPV1など、がん抑制物質が相対的に不足した成人の場合、カプサイシンの大量摂取ががん発生を大きく促進しかねないこともわかった。

 ただ、カプサイシンだけを調理した場合は、TRPV1遺伝子が存在するマウス、不足したマウスともがん発生を誘発しなかった。このことから、カプサイシンはそれ自体ががん誘発物質なのではなく、がん発生を促進する機能を備えているということだと、研究陣は伝えた。

 また、トウガラシの場合はカプサイシン以外にも多くのビタミンCをはじめクェルセチン、カロテノイドなど有益な生理活性成分が大量に含まれており、この研究結果をトウガラシに一般化して解釈することはできないとしている。

 研究結果は、米国がん研究協会が発行する学術誌「キャンサー・リサーチ」9月号に記載された。

2010年9月6日 聯合ニュース

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がん検診(2)対象年齢、各国まちまち
 
栃木県の主婦(39)は2007年秋、子宮頸(けい)がん検診で「異形成」と診断された。

子宮頸がん検診は、膣(ちつ)から綿棒を入れて、子宮頸部の細胞をこすり取って調べる。異形成はがんではないが、正常な細胞に比べると変化が見られる状態だ。

異形成の状態から、がんが表面の上皮組織にとどまる初期(上皮内がん)を経て、周囲に広がる「浸潤がん」に進むまでには、5〜10年ほどかかる。このため、検診を定期的に受けていれば、ほぼ確実に異形成や上皮内がんの段階で発見できる。上皮内がんであれば、部分切除手術によって子宮を温存する治療が可能だ。

とは言え、異形成は必ずがん化するわけではなく、正常細胞に戻ることも多い。異形成を3段階に分けたうち、最もがんに近い状態(高度異形成)でも、浸潤がんに進むのは12%以下とされる。

この主婦の場合は、軽度から中等度の異形成とわかったため、治療を見合わせ様子をみている。高度異形成であれば、がんに準じて部分切除手術を行うことが多い。

子宮頸がん検診は、がんになる確率や死亡率を下げる科学的な根拠も豊富にあり、世界中で行われている。慶応大産婦人科教授の青木大輔さんは、「がん検診の中でも必ず受けてほしい検診です。ただし、命にかかわらない早期の病変ばかり見つけては死亡率を減らす効果がない。死亡率減少効果は年齢層や地域によって異なる可能性があるので、対象年齢については慎重に考える必要がある」と説明する。

英国では04年、対象年齢を20歳以上から25歳以上に引き上げた。20歳代前半では、命にかかわらず不必要な治療につながる過剰診断ばかりが増えると判断したからだ。09年には、英国の子宮頸がん患者約4000人を対象にした研究で、20歳代前半の検診は浸潤がんの減少にはつながらないとの論文が発表された。

これに対し、日本では04年、対象を30歳以上から20歳以上へ引き下げた。日本では、若年層の発症が増えているとの理由からだ。

何歳からを対象にするかは国によっても異なる。経済協力開発機構(OECD)資料によると、20歳以上の国や韓国など30歳以上の国もあり、まちまちだ。

がん検診に詳しい東北大名誉教授の久道茂さんは、「果たして20歳代前半の検診が有効なのかどうか、日本は日本独自のデータを基に、しっかり検証する必要がある」と話している。

2010年8月27日 読売新聞

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海外技術/オーストリア社、がんを息から判別する診断法開発へ

オーストリアの分析機器メーカーのイオニメッド(チロル州)は、がんの個別化治療の研究調査機関であるオンコチロルと共同で、呼気からがんの手がかりとなるマーカーを見つけ出す研究に着手した。微量の揮発性有機化合物(VOC)を検知できる陽子移動反応質量分析(PRTMS)装置を使い、呼気が含むアルコールやアセトンなどの低分子化合物を解析。簡単ながんの診断法の開発につながる。

 プロジェクトの期間は2年で今年4月に開始。現在乳がん患者と健常者ら60人分のデータを採取しており、今後もデータ数を増やしていくという。将来、乳がんだけでなく、他のがんへの適用も可能ではないかと見ている。

 乳がん患者や健常人などを含む呼気のデータを採取。呼気に含まれる1000種類以下の化合物に関し、複数の化合物の量を比較し、乳がん患者特有のパターンがないかを調べる。

2010年08月26日

| がんの最新研究報告 | |
東大と富士通、がん治療薬開発を目的としたスパコン活用を開始

東京大学先端化学技術センターと富士通は8月5日、「がんの再発・転移を治療する多機能な分子設計抗体の実用化」研究プロジェクトにおいて、クラスタ型のスーパーコンピュータによるシミュレーションを活用した医薬品設計・開発を開始したことを発表した。

東京大学 先端科学技術研究センター教授 児玉龍彦氏

がんの再発・転移を治療する多機能な分子設計抗体の実用化」研究プロジェクトは、内閣府や日本学術振興会の支援を受けた最先端研究開発支援プログラムとして位置付けられており、東京大学 先端科学技術研究センター教授の児玉龍彦氏が中心となってプロジェクトが進められている。

同プロジェクトで使用されるシステムは、300ノードの「PRIMERGY BX922 S2」で構成されたPCクラスタ型のスーパーコンピュータ。理論ピーク性能は38.3TFLOPS(テラフロップス)で、「海洋研究開発機構が2002年に運用を開始した『地球シミュレータ』と比べて、電力あたり約40倍の性能を持つ」(富士通 テクニカルコンピューティングソリューション事業本部本部長 山田昌彦氏)とされる。

富士通 テクニカルコンピューティングソリューション事業本部 本部長 山田昌彦氏

今回の説明会で児玉教授は、「進行がんの治療は副作用との戦いである」と説明。「抗体医薬品」は、進行がんに対して、副作用を抑えた"ピンポイント"での画期的な治療を実現できる分子標的薬としてすでに世界で4兆円の市場に急成長しており、現在は各国で激しい研究開発競争が繰り広げられている状況だという。

今回の研究開発のターゲットとされているのは、主に消化器系を中心とした「固形がん」。これには「発生率が高い」という理由のほかに、「2mm以上の腫瘍について、正確な体外PET(断層撮影技術の1つ)イメージング診断が行えるようになった」(児玉教授)といった技術的な要素がその背景にある。同プロジェクトには富士フイルム(ライフサイエンス研究所)も参画しているが、同社がこのイメージング診断に関する技術開発の役割を担っている。

児玉教授は、「この分野では"世界で一番"にならなければ意味がない」とし、関連特許の取得は「まさに1分1秒を争う状況」であると強調。スピードが要求される「創薬」分野でのスーパーコンピュータシステムの有用性をあらためて訴えた。

なお、このスーパーコンピュータシステムが活躍するのは、がん細胞の一部である抗原(タンパク質)と抗体(タンパク質)との相互作用を分子動力学によってシミュレーションを行う人工抗体設計の部分(「分子動力学コンピュータシミュレーション」)で、この領域は東京大学先端科学技術研究センター特任教授藤谷秀章氏が担当している。このシミュレーションは、従来の研究開発プロセスでは3〜4年かかっても実現が困難とされていたが、同システムを利用することで数ヵ月で実現することを目指すという。

東京大学 先端科学技術研究センター特任教授 藤谷秀章氏

当面は、「とにかく早期に最初の1つを成功させなければならない」(児玉教授)というミッションがあることから、まずは肝臓がんなどの3種類に対象を絞って"世界で一番"で特許を取得し、「ゲノム抗体医薬品」の設計・開発・治験プロセスを経て、5年以内で実用化することを目指す。

同プロジェクトで利用されるスーパーコンピュータシステムは、上述のように300ノードの「PRIMERGY BX922 S2」PCクラスタシステムとなっており、CPUにはインテル Xeon プロセッサー X5650×2(1ノードあたり)、計600CPUが搭載されている。理論ピーク値は38.3TFLOPS、ノード間のネットワークインタフェースは、 InfiniBand QDR(4Gbps)が採用されている。また、ストレージには富士通のディスクアレイ装置「ETERNUS DX80」を5台搭載。RAID6での実効容量は1PB(ペタバイト)とされる。ちなみに、同システムの東京大学先端科学技術研究センターによる買取価格は4億円となっている。

なお説明会では、同センターのサーバルームに配備されたスーパーコンピュータシステムの実機が公開された。

2010年8月6日 毎日新聞

| がんの最新研究報告 | |
東大と富士通、がん治療薬開発を目的としたスパコン活用を開始

東京大学先端化学技術センターと富士通は8月5日、「がんの再発・転移を治療する多機能な分子設計抗体の実用化」研究プロジェクトにおいて、クラスタ型のスーパーコンピュータによるシミュレーションを活用した医薬品設計・開発を開始したことを発表した。

東京大学 先端科学技術研究センター教授 児玉龍彦氏

がんの再発・転移を治療する多機能な分子設計抗体の実用化」研究プロジェクトは、内閣府や日本学術振興会の支援を受けた最先端研究開発支援プログラムとして位置付けられており、東京大学 先端科学技術研究センター教授の児玉龍彦氏が中心となってプロジェクトが進められている。

同プロジェクトで使用されるシステムは、300ノードの「PRIMERGY BX922 S2」で構成されたPCクラスタ型のスーパーコンピュータ。理論ピーク性能は38.3TFLOPS(テラフロップス)で、「海洋研究開発機構が2002年に運用を開始した『地球シミュレータ』と比べて、電力あたり約40倍の性能を持つ」(富士通 テクニカルコンピューティングソリューション事業本部本部長 山田昌彦氏)とされる。

富士通 テクニカルコンピューティングソリューション事業本部 本部長 山田昌彦氏

今回の説明会で児玉教授は、「進行がんの治療は副作用との戦いである」と説明。「抗体医薬品」は、進行がんに対して、副作用を抑えた"ピンポイント"での画期的な治療を実現できる分子標的薬としてすでに世界で4兆円の市場に急成長しており、現在は各国で激しい研究開発競争が繰り広げられている状況だという。

今回の研究開発のターゲットとされているのは、主に消化器系を中心とした「固形がん」。これには「発生率が高い」という理由のほかに、「2mm以上の腫瘍について、正確な体外PET(断層撮影技術の1つ)イメージング診断が行えるようになった」(児玉教授)といった技術的な要素がその背景にある。同プロジェクトには富士フイルム(ライフサイエンス研究所)も参画しているが、同社がこのイメージング診断に関する技術開発の役割を担っている。

児玉教授は、「この分野では"世界で一番"にならなければ意味がない」とし、関連特許の取得は「まさに1分1秒を争う状況」であると強調。スピードが要求される「創薬」分野でのスーパーコンピュータシステムの有用性をあらためて訴えた。

なお、このスーパーコンピュータシステムが活躍するのは、がん細胞の一部である抗原(タンパク質)と抗体(タンパク質)との相互作用を分子動力学によってシミュレーションを行う人工抗体設計の部分(「分子動力学コンピュータシミュレーション」)で、この領域は東京大学先端科学技術研究センター特任教授藤谷秀章氏が担当している。このシミュレーションは、従来の研究開発プロセスでは3〜4年かかっても実現が困難とされていたが、同システムを利用することで数ヵ月で実現することを目指すという。

東京大学 先端科学技術研究センター特任教授 藤谷秀章氏

当面は、「とにかく早期に最初の1つを成功させなければならない」(児玉教授)というミッションがあることから、まずは肝臓がんなどの3種類に対象を絞って"世界で一番"で特許を取得し、「ゲノム抗体医薬品」の設計・開発・治験プロセスを経て、5年以内で実用化することを目指す。

同プロジェクトで利用されるスーパーコンピュータシステムは、上述のように300ノードの「PRIMERGY BX922 S2」PCクラスタシステムとなっており、CPUにはインテル Xeon プロセッサー X5650×2(1ノードあたり)、計600CPUが搭載されている。理論ピーク値は38.3TFLOPS、ノード間のネットワークインタフェースは、 InfiniBand QDR(4Gbps)が採用されている。また、ストレージには富士通のディスクアレイ装置「ETERNUS DX80」を5台搭載。RAID6での実効容量は1PB(ペタバイト)とされる。ちなみに、同システムの東京大学先端科学技術研究センターによる買取価格は4億円となっている。

なお説明会では、同センターのサーバルームに配備されたスーパーコンピュータシステムの実機が公開された。

2010年8月6日 毎日新聞

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理研と韓国プサン大、動く細胞の挙動観察−がん転移解明に弾み

 理化学研究所と韓国プサン大学の研究グループは、高い移動性を持つ細胞が狭い溝を横切ることできずその場から引き返す挙動を示すことを発見した。また、格子上の溝に進入すると動きが鈍くなることもわかった。
 細胞の移動を制御するシステムの開発につながり、同じく高い移動性を持つがん細胞の移動メカニズムや転移の仕組みの解明に弾みがつく可能性がある。
 魚のうろこの上にある細胞「ケラトサイト」を使って確認した。ケラトサイトはよく動く細胞の代表格で、障害がない場所では1時間あたり約1000マイクロメートル(マイクロは100万分の1)移動できる。微細加工によってシリコン基板に形成した幅1・5マイクロメートル、深さ20マイクロメートルの溝を横切ることができず、90%以上の確率で進行方向と逆の方向にはね返された。

2010年08月05日 日刊工業新聞

| がんの最新研究報告 | |
体内時計遺伝子がもつがん増殖を抑える力

新たな機能を発見

バイオメディカル研究部門
生物時計研究グループ 主任研究員
宮崎 歴

ほ乳類の体内時計によって生み出される日内リズムの分子機構について研究をしています。これまでは体内時計が時を刻む仕組みを解明することに注力してきましたが、最近はその時計機構によって睡眠や生理リズムがなぜ起きるのか、そしてリズムがストレスで乱れる仕組みとその改善法について興味をもって研究を進めています。

時計遺伝子の壊れたマウスでわかってきたこと

 サーカディアンリズムは体内時計遺伝子が作り出している24時間の生体リズムです。体内時計遺伝子が壊れるとサーカディアンリズムが乱れるだけでなく、肥満や糖尿病、がんのなりやすさ、睡眠の性質が変わるなどリズムとは異なる生理機能にまで影響が及ぶことがマウスを用いた研究でわかってきました。そこで、がんの増殖に着目し、体内時計遺伝子Period2から作られるPER2分子のがんの増殖に及ぼす影響を解析しました。

時計遺伝子とがん細胞の増殖

 細胞分裂をコントロールする細胞周期が体内時計により影響を受けているため、正常細胞では24時間のリズムで増殖をすると報告されています。しかし、がん細胞では体内時計遺伝子のリズム発振が失われ、細胞が制御されない増殖をした結果、がんが増大するのではないかと考えられました。私たちは、人工的にPER2をたくさん作り出すがん細胞を作ればサーカディアンリズムが戻り、増殖が抑えられ、がんが治るのではないかと単純に考えました。そこで、PER2を大量産生するがん細胞(PER2産生量の高中低によりPER2−H、 −M、 −L)を作製し、マウスの皮下におけるがんの増殖傾向を観察しました。すると、PER2がたくさん産生されるがん細胞ほどマウスの皮下での増殖が抑制されました。不思議なことにこれらの細胞の培養皿の中での増殖スピードや細胞分裂にかかわるような遺伝子の働きにはまったく違いがなかったのです。しかし、細胞の運動性や免疫細胞により攻撃される感受性がPER2産生の高い細胞では促進されていることがわかりました。体内時計遺伝子PER2が発現しているがん細胞は、マウスの皮下においてあまり動き回ることがなく免疫細胞により攻撃を受けやすくなり、体内から消えていくという新しいメカニズムによりがん細胞の増殖が抑えられたのではないかと考えられます。

今後の展開

 がん細胞の種類によっては、PER2はがん細胞の増殖そのものを抑制できるという報告もあります。今回の結果とあわせると体内時計遺伝子Period2による遺伝子治療の開発へとつながる可能性があります。

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知っておきたい「がん」と最新医薬品の話
がん治療薬の新しいステージを拓く抗体医薬品

かつて、がん治療は患者さんの命を救うことが最大の目的だった。しかし、現在では患者さんの命を救うだけでなく、いかに快適な日常生活を送ることができるかも重要な治療目的になっている。抗がん剤による化学療法は、しばしば患者さんのQOL(生活の質)を損なうが、それでも命が助かるのなら、と必死に頑張っているのが現代のがん患者さん。だが、医療技術は日進月歩。外科治療は縮小手術に向かい、放射線療法はがんをターゲットに集中的に照射する方法が開発されてきた。投薬の分野でもより効果的で副作用の少ない薬剤が開発されている。その1つが抗体医薬品と呼ばれるもので、抗体医薬品の登場によって、がんに対する化学療法は新たなステージを迎えた。

 がん患者さんは初診時から終末期にいたるまで、あらゆる段階で強いストレスにさらされる。入院、転移の恐怖。そして、がんそのもの、あるいは治療による身体機能の低下…。とくに治療による身体機能の低下と不安感は治療経過にも影響を与える。

 がんの3大治療法は外科療法、放射線療法、化学療法だが、1つの治療法でがんを治癒させることができるのはきわめて早期のがんに限られる。多くの場合、外科療法と化学療法、外科療法と放射線療法、化学療法などを組み合わせた治療が複合的に行われるが、治療が濃密になればなるほど治療にともなう弊害が患者さんに及ぶ可能性も高まる。

 そこで、がん患者さんのQOLを高めるための治療の進歩が望まれている。外科治療では開腹しない内視鏡手術や開腹しても切除範囲を最小限にとどめる縮小手術が進歩してきた。化学療法の分野では副作用対策の進歩がQOLの向上に欠かせない。加えて、投与頻度や投与方法も患者さんのQOLに大きく影響する。

 特定分子のみをターゲットにするため副作用の少ない抗がん剤として期待が集まる抗体医薬品は、もう一つのメリットとして体内で効果を発揮する時間が長いという特徴がある。現在の技術では錠剤などの飲み薬にできないため、注射で投与する必要はあるが、投与間隔を長くすることができれば、患者さんの負担が軽減し、QOLの向上に大きく貢献するだろう。

ポテリジェント(R)技術とKMマウス
協和発酵キリンの抗体技術

 抗体医薬品の登場によってがん化学療法は新しいステージに入った。
協和発酵キリンは抗体医薬品の研究開発においてすぐれた独自技術をもち、世界的なリーダー企業の一つとなっている。同社独自技術の筆頭は、「ポテリジェント(R)技術」と呼ばれる抗体の活性を高める技術だ。従来の抗体に比べて100倍以上も高い抗腫瘍効果を示す抗体医薬品の開発を可能にした。すでに述べたように、化学療法単独で治癒に導くことは難しく、医薬品の活性を高めることは世界中の研究者の課題だった。活性の高い抗体医薬品が開発されれば、より有効な治療の選択肢も広がる。

 さらに、完全ヒト抗体を作製するマウス(KMマウス)も協和発酵キリンの独自技術だ。抗体医薬品の開発は、まず抗原に結合する抗体の探索からはじまる。マウスなどに抗原を注射して抗体を作らせた場合、選び出された候補抗体はマウスのタイプであり、このままではヒトに投与することは困難である。ヒトの体内で、マウス抗体は異物として認識されてしまうからである。そこで、ヒト抗体を産生してくれるマウスをつくることは研究者たちの長年の課題だったが、協和発酵キリンは独自技術で作ったマウスと米国メダレックス社のヒト抗体産生技術で作ったマウスをかけ合わせることで、完全ヒト抗体をつくるKMマウスの作製に成功した。これにより、候補となる抗体を迅速に手に入れることができるようになった。

※HAC技術とは、ヒト抗体遺伝子が大きいため従来の技術ではマウスに一部しか 導入できなかった点を 解決し、遺伝子を塊として含むヒト染色体の断片をマウスに導入できるようにする手法。

日米欧3極GMPルールを遵守した
厳格な製造工程

 さらに協和発酵キリンの独自技術として重要なのは、抗体医薬品の生産技術だ。抗体医薬品の製造プロセスは合成医薬品と大きく異なる。巨大な培養タンクを用いて抗体を産生する細胞を大量に培養することで生産が行われる。

 製造プロセスは大きく培養、精製、製剤化の3段階に分かれるが、当然のことながら、投与される患者さんの安全を第一に考える製造設備を必要とする。原材料の調達から機器洗浄にいたるまで、あらゆる工程で製造管理、品質管理が求められるのだ。そこに同社が長年蓄積してきた発酵プロセスを多面的にコントロールする技術が生かされている。
バイオ生産技術研究所 モノクローナル抗体原薬製造施設(群馬県高崎市)

 2010年3月に竣工したばかりの群馬県高崎市にある協和発酵キリンのモノクローナル抗体原薬製造施設は日本最大クラスの培養スケール10tと 5tの2つのラインをもつ。日米欧3極のGMP基準を遵守する施設で、多品種の抗体原薬製造が可能という。ここでは臨床試験用に、ラインアップにあがっている抗体治験薬を製造し、将来的には上市用原薬の製造も視野にある。
協和発酵キリン
生産本部 バイオ生産技術研究所
GMP製造グループ
中川泰志郎氏

 GMPとは、Good Manufacturing Practiceの略で、医薬品製造の各段階において製造者が遵守すべき基準のこと。各国が独自に規定したルール(現在、3極調和が進められている)をもち、臨床試験を行う際には、その国のGMPを遵守した施設で製造された治験薬を使わなければならない。日米欧3極のGMPそれぞれを遵守した製造施設であるということは、それだけ厳しいルールに基づいて抗体医薬品が製造されていることを意味する。GMPは医薬品の製造規範であり、これを遵守することは、社会に対して製薬メーカーが品質を担保していることを宣言するに等しい。

「GMPでは、各製造工程での作業手順ごとに確認と作業記録を残すことを求めています。安全性と品質管理に細心の注意を払っており、製造した治験薬を自信をもって臨床現場に送り出すことができます」(協和発酵キリン生産本部バイオ生産技術研究所GMP製造グループの中川泰志郎氏)

チームワークが支える
高い医薬品製造技術

 抗体医薬品の製造では、抗体産生細胞の培養規模が段階的に拡大されていく。
「私たちの大きな目標は患者様により効果的な抗体医薬品を届けること。私の仕事では効率的により安全性の高い、そして一定の品質を維持した医薬品を製造することです。そのために私たちの誇れることの1つはチームワークです。サッカーのW杯日本代表のように最高のチームワークで、世界でも最先端の抗体医薬品の製造ラインを運営していきます」と、中川氏は意気込む。

 取材の間、中川氏が何度も強調したのが高品質。がん、腎疾患、免疫疾患を重点領域として医薬品を開発する協和発酵キリンでは完全ヒト抗体作製技術やポテリジェント技術などを駆使して、さまざまな研究開発が進行中だ。製薬企業としての医薬品の有効性の追求、社会の付託に応えるための安全性の追求。その両輪が同社を先端医薬のトップランナーへと進めている。

2010年8月2日 ダイヤモンド

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